LOGIN「ヒルダ様はそちらの脳筋っぽい方のお相手をなさるようですわね。 ならマリーは……」マリーが相手を狙い定め始めようとしていた時に、セバスチャンが口を挟んできた。「マリー、お前は剣の勇者様のお相手をしなさい」嫌そうな顔をしながらマリーは反発する。「…… おとうさま、マリーが得意なのは魔法ですわ」「お嬢様の前で、その呼称はいけませんね」セバスチャンはゾルダの方をちらっと見ながら、マリーに対して注意をする。 そこまで気にしなくてもいいとは思うし、ゾルダだって気にしていいる感じはしない。 それでも言うってことは、かなりセバスチャンは几帳面なのだろうと思う。「いいじゃないですか! おとうさまはおとうさまですもの」マリーはさらに反発するように大声を出しているが、セバスチャンは顔色一つ変えていない。「お前は剣の勇者様です。 合わせて攻撃魔法は禁止です。 わかりましたね?」いつもより低い声がなお一層の迫力を感じる。 その迫力に押されてから、マリーも渋々承諾した。「……わかりましたわ。 おとうさまの言う通りにしてさしあげますわ」マリーはそう言うと剣をシュッと斜めに振ると、剣の勇者の前に立った。「そうなると、おいどんはこっちの魔法を撃ったやつかの」シータもゆっくりと魔法を放った勇者の前に立ちふさがった。 そう言えば、あの勇者はゾルダたちは知らないと言っていたな…… そうなるとゼドと戦ったという前の勇者かな。 えっとなんて言ったっけな…… あぁ、「賢の勇者!」確かそう国王から聞いた気がする。「なんじゃ? おぬし。 いきなり声を上げて」「いや、思い出したんだ。 国王に前に呼ばれた勇者の話を。 あらゆる魔法に適合していて、賢の勇者という風に言い伝わっていたと」「ほぅ…… あらゆうのぅ…… そういう意味では、シータは適任かもしれんのぅ。 あいつもあのなりで魔術バカだからのぅ」シータも難しいと言われる転移魔法をさっと使いこなせるので、魔法が得意なんだろうと思ってはいたけど…… それにゾルダたちにしてみれば未知の勇者。 この辺りを見越してセバスチャンが指示したのかな。「剣の勇者様は多少なりとも私共は知っておりますので……」セバスチャンは俺が考えてい
「さて、次へ行くとするかのぅ」砕け散った肉塊が飛び散る部屋を出たワシらはさらに城の奥へと進んでいったのじゃ。 城の中は上へ下へ右へ左へと通路がわかれておる。 本当にあいつはワシをイライラとさせるのが上手いのぅ……「なんだか、本当にゲームをしているようだ」あやつがポロっとつぶやいた。「なんじゃ、そのげぇむとやらは?」聞きなれない言葉に興味がわくのぅ。 なんか強そうな気がするのじゃ。「うーん…… 説明が難しい…… こっちにないものだし、似たようなものもないものだからなぁ……」あやつは困り果てた顔をしておる。 それとも何かワシに話せないことでもあるのかのぅ。「そんなにもったいぶらずに、教えてくれてもいいのにのぅ」そんなつもりはないのじゃが、思わず顔がニヤリとしてしまった。 それを見たあやつは全力で首を振りながら「いや、本当に難しいんだって。 コンピュータってもの自体を説明できないし…… 機械で自動的に計算した空間の中で自ら体験しながら物語を楽しむ? なんかこれでも違うんだよな~」…… あやつは何を言おうとしておるのじゃ。 なんか奇妙奇天烈なことを言っておる。「機械? 自動で計算? 物語を楽しむ? なんか全部がつながっているようには見えんのじゃが……」「まぁ、そういう向こうは世界だったから。 科学?機械? まぁ、そういったものが発展していてさ。 魔法なんかない世界だし」あやつのいた世界とはどんなところじゃったのだろぅ。 魔法もなく不便で仕方ないような気もするのじゃがのぅ…… それでもこちらにはないものがいろいろとあり、面白そうな気がするのじゃ。「ほぅ…… それはまた興味があるのぅ。 これが終わったらぜひ行ってみたいものじゃ」「それが叶うなら俺も嬉しいよ」そういえば、過去の勇者たちもそのようなことを言っておったような気がするのぅ。 最後の最後には元の世界に戻りたいと言って息絶えた者もおったしのぅ。 もしおぬしらの国に行けるようになったのであれば、亡骸を国に返すことが出来るのかもしれぬ。 そうなれば、あいつらも喜ぶかもしれんのぅ……「??? ゾルダ、どうかした?」過去の勇者たちの事を思い出しておったのじゃが、それがあやつにはなんか深く考え込んでおるように見えたのやもしれぬ
セバスチャンは少しだけ乱れていた衣服を整えていた。 しっかりと整っているように見える髪型も念入りに直していた。 普段からきちんとした身なりをしているセバスチャン。 何故改めて身なりを整え始めたのだろう。「うむ、これはセバスチャンの本気が見れるかのぅ」セバスチャンの様子を見ながらニヤニヤしはじめたゾルダ。「えっ? というか、今まで本気じゃなかったの?」「??? 何を今更…… おぬしもわかっておったのじゃないのか? ワシらは今まで本気を出した事などないのじゃ」「えーっ!」あれでまだ本気出してないの? 驚いてマリーとシータの方を見ると、二人は首を振っている。 二人は本気でやっていたようだ。 ゾルダのやつ、話を盛りやがって。ヒルダはどうなのだろう。 セバスチャンを見つめて悶えているけど……「セバス……いいわぁ~ その本気をわっちにぶつけて欲しいわぁ」まぁ、ゾルダの叔母だし、今までも本気じゃないのだろう。「マリーとシータは首振っているぞ。 あの二人は全力だったみたいだけど」「そうじゃったかのぅ。 まぁ、あの二人はまだ若いしのぅ」ゾルダはそういうと横目でマリーとシータの方を見た。 二人は何かを察したのか硬直したようにビシッと立っていた。「マリーは可愛いからいいとし、シータはもう少し鍛え直す必要があるかもしれんのぅ」その言葉を聞いたシータはブルブルと震えていた。「まぁ、そんなことはどうでもよい。 ワシを制して前に出た以上セバスチャンにもそれなりの覚悟があるのじゃろぅ。 ここは暖かく見守らねばのぅ」ゾルダはセバスチャンの一挙手一投足を見るかのように視線を向けた。 身なりを整え直したセバスチャンは、亜空間から三叉の槍を取り出した、。 そして大きく息を吐くと、メフィストへに向かっていった。一瞬で間合いを詰めたセバスチャンがメフィストの近くまで行くと、辺りに紫色のどろっとした液体が飛び散った。「あれ? 今、攻撃した?」「なんじゃ、見えんのか? 20発を1点に集中的に繰り出しておるぞ」そんなにも? なんか飛び散っているし、腕のあたりが大きくえぐれているからなんかしたのだろうとは思ったけど……ただその攻撃を受けてもなんとも感じていない様子のメフィスト 両腕を合わせて大きく振りかぶる
このような頑丈な壁、どうやって構築してきたのでしょうか。 お嬢様の物理攻撃がまったく効かないのは初めて見ました。 簡単に作れるものなら、ぜひともお嬢様の住む家にも使いたいところです。「ちっ、ここも壊れんのぅ。 早くアスビモの奴のところに行きたいのじゃが……」お嬢様は相当悔しいのでしょうか。 しばらく歩いてはまた壁にパンチやキックをしています。 さっきは魔法を手にのせて壁を攻撃していましたが、ビクともしませんでした。 いい加減諦めてもよさそうなのですが……「もう無理なのはわかっただろ、ゾルダ。 入れるところから入っていこうよ」アグリ殿は呆れながらお嬢様の手をひぱって進もうとしています。「うーん…… でもなんか癪に障るのぅ。 アスビモの奴の思い通りに進むのはのぅ……」やっぱり、お嬢様は悔しいようです。 釈然としない顔をしておりますが、アグリ殿の判断が賢明かとは思います。しばらく城壁沿いに歩いていくと、大きな入口が見えてきました。 私たちがその近くまで来ると、勝手にその扉が開きました。「ワシらを招きいれるということかのぅ。 よっぽど自信があるようじゃ、あのアスビモとかいう奴は」お嬢様は左手に右手の拳をパンと当てながら、ニヤリと笑っていました。 どんな状況でもお嬢様は楽し気にしています。 こういう凝ったことを行う方々を正面突破して蹴散らすのがお嬢様ですから、ワクワクしているのでしょう。「確かにどこからでもかかってこいっていうメッセージに見えるね。 でも、他には入口があるかもしれないから探そう」反面、アグリ殿は物事を慎重に進めたがります。 自身の力量を踏まえた上での判断だとは思いますが、 もう少しお嬢様や私たちの力量も織り込んでいただけるといいのですが……アグリ殿は周りに他の入口がないかと探しはじめました。 しばらくあちこちを見て回りましたが、入れそうなところはここしかなさそうでした。「うーん、他には無いし、ここから入るしかないのかな。 アスビモだから絶対なんかしらあるよね。 慎重に進んでいこう」アグリ殿がそう言うと、みなで城内へと入っていきます。「埃一つ落ちていない完璧な回廊です。 ですがが、嫌な魔力が満ち溢れています。 おもてなしとしては、少々品に欠けます」何かしら仕掛けてあ
ゼドの居城を出立して数日が経った。 その間もこの森は容赦なく俺たちを襲い続けている。「これだけ魔物が居ればそりゃ誰も近づかないな」「アグリ殿、確かにおっしゃる通りですが、以前はここまでではなかったかと」セバスチャンが言うには、これだけ魔物が溢れかえっていえば、魔王城の付近にも溢れ出ているとのこと。 そりゃそうだな。 これだけ多くの魔物がこの森に閉じ込められているようにいて、お互いを争っていないところを見ると、 何かに操られているのかもしれない。「それに、魔物だけじゃないですわ」マリーはそう言うと、右前の大木を目掛けて魔法を放つ。「氷の矢」大木に無数の氷塊ぶつかると一瞬で樹氷のようになり破裂する。「グワーッ」大きな叫び声と共に氷漬けされた魔族も共に落ちてきた。「ほら、また居ましたわ」この森に入った俺たちを虎視眈々と狙う魔族。 アスビモの手の者だとは思うのだが、如何せん事情は聞けていない。 というのも、ゾルダをはじめ、四天王の方々は見つけた矢先にすべて皆殺しである。「マリー、あのさ、すぐ倒すんじゃなくて、情報聞き出そうよ」「そうよ、マリー。 もっと私に受け止めさせてくれないとぉ」ヒルダは顔を赤らめながら不服そうな顔をしている。 …… うん、とりあえずスルーだな。「このままじゃ、何の情報も得られないまま、アスビモと戦うことになるよ。 あいつのことだから、何か仕掛けているんじゃないか?」「あぁん、スルーなのね。 それもまたたまらないわ」親指を口に加えて身悶えをしているヒルダ。 …… 放っておこう。「情報、情報とうるさいのじゃ」ゾルダが興奮気味に言葉を放つ。 ここまで多くの魔物や魔族を倒してきたことで、気分が高揚しているのだろう。 倒すなんて生ぬるい感じがする。 一方的に蹂躙しているというのが正解だ。 それで興奮が抑えられないのだろう。「どうせ、こんな端どもなぞ、なーんにも知っておらんのじゃ! アスビモの奴の話を鵜呑みにしておるか、あやつられているかのどちらかじゃ」「まぁ、そうかもしれないけど……」「圧倒的な力の前には策など無策じゃ!」ニヤリとしたゾルダは高笑いをする。 その笑い声が森にこだまする。「それでもさ、先日のあれはやり過ぎじゃない?」「そんなことな
あれから数日――ゼドがいろいろと手配をしたこともあり、アスビモが取得したという土地への出立の準備が整った。 その間、アスビモの居場所に繋がる情報も調べてもらっていたが、こちらはあまり有益な情報は出てこなかった。「アスビモの奴め…… あいつはどこにおるのじゃ」ゾルダはアスビモの情報のなさにイラつき始めていた。「まぁまぁ、みんな頑張ってくれているみたいだし。 ゼドも上手に指示出来ているみたいだし、そのうちいい情報が入ってくるよ」「まぁ、それはそうじゃが……」ゼドはあの騒動後、ゾルダに魔王を返すと言っていたけど、ゾルダは固辞していた。『今の魔王はお前じゃ、ゼド。 もともとワシはお前が出来るようになるまでの中継ぎじゃ。 それに、魔王は窮屈だったしのぅ』そういうこともあり、ゼドもそのまま魔王の座についている。 それもここ数日で上に立つ覚悟と自信もついたようで、魔王らしくなってきているのかもしれない。 そんなゼドを見つめているゾルダも、なんとなく姉の表情をしているように感じた。「ゼド様、失礼します」そこに魔王軍の兵が慌てて入ってきた。「なんだ、何かあたったのか?」「はっ、街から市民が徐々に減ってきているとの話が上がってきました。 どうやら、主要都市のすべてでその現象が起きていると話です」住んでいる人たちが減ってきているというのは何とも奇怪な現象だ。「それで? 原因はつかめたのか?」「原因はつかめていませんが、いなくなった人たちの傾向は把握出来ました」「傾向?」「はい、アスビモ商会から定期的に栄養ドリンクを買っていたものが多いそうです」アスビモは以前から魔族の国に仕込みをしていたようだ。 長い時間をかけていろいろと手を打っていたのだろう。「そうか……」その状況にゼドも落胆した様子だった。 自分のことで頭がいっぱいで周りを見ていなかったのだろう。 その間に、アスビモは国民にまで手を伸ばしていたのだった。 そのことに自分自身の不甲斐なさも感じたのかもしれない。「ねえちゃん、どうする?」ゼドは先ほどの堂々とした姿とはかけ離れた顔で、ゾルダに助言を求めてきた。「その前にじゃ。ゼド。 部下のいる前で『ねえちゃん』はないのじゃ。 威厳が無くなるのじゃ。 こういうところでは魔王らしく振舞うのじゃ」